赤松健が毎週月曜日、様々な分野の方々をお招きするスペースのダイジェスト。今回は株式会社ゲムトレ代表の小幡和輝さんをゲストに迎え「不登校支援のあり方とゲームの効用」(5月23日)と題して語らいました。この問題、赤松自身も不登校の子どもがいるので、他人事ではありません。

不登校になれて良かった!?

 小幡さんは幼稚園の頃からゲームが大好きで20年以上ずっとやってきたそうです。アニメは4歳の時に『ONE PIECE』第1話を見て、それ以来リアルタイムで視聴し、漫画はジャンプ党。幼稚園時代から型にはまった集団生活になじめず、小学校2年の頃にいじめにあって不登校になってしまいました。でも、その時に小幡さんは「不登校になれてよかった」と思ったそうです。親御さんも最初は無理矢理登校させていたのですが喧嘩になり、不登校が続き、フリースクールに通い始めた小幡さんは初めて友達ができました。

 フリースクールと言っても様々ですが、基本は「とにかく外に出るのが第一の目標だった人たち」のための居場所です。小幡さんの通ったフリースクールではみんながゲーム好きでゲームをやっている。

「僕は遊戯王カードが好きで、もうずーっと遊戯王」(小幡)

 小幡さんは強かったので周囲が「大会に出てこいよ」と背中を押してくれて、小学校6年か中1で初出場し、高校生も社会人も全部倒して3位入賞という驚きの結果に!「あ、これはいける」と思った小幡さんは研究を重ね、中学時代は和歌山県でずっとチャンピオンでした。ゲームのコミュニティで有名になった小幡さんは年上の人たちにも可愛がられて、大会の運営を手伝い、世界が拡がっていきました。

 不登校だった子がどうして友達を作り、大人たちとも付き合えるようになったのか? 小幡さんは「不登校=コミュニケーション能力が低い」を否定します。

「コミュニケーション能力って経験値だと思います。人と仲良くなっていくプロセスの積み重ねによってコミュニケーション能力が上がっていくと思うんです。不登校になって経験を積む環境を奪われた結果、苦手になっていく。不登校になった後の環境を変えることで子供たちはもっと輝けると思っているんです」(小幡)

 その後、小幡さんは定時制高校に進学し、そこで大きな転機を迎えます。当時『戦国無双』にはまり、大河ドラマにはまっていた小幡さんはNHK和歌山の体験ツアーに参加し、バンドをやっている子と出会ってライブの企画に携わり、高3の時に会社を立ち上げます。これには赤松もびっくりですが、さらに驚いたことにはAO入試で国立和歌山大学に進学しているんですね!

 赤松は高校2年でゲームを作って全国発売しています。しかし、大学受験の際に一旦中断しました。赤松が高校生の頃は進学するためには受験勉強という選択肢しかなかったのですが、今ではAO入試が多くの大学で採り入れられています。また2017年から「教育機会確保法」が成立して、これまでとは違った進路を選べるようになりました。

「文部科学省としては、不登校の子を学校に戻すことゴールではなくて、子供たちが学べる環境を作ったりとか、子供たちの意志を優先して進路を考えるという風にルールが変わったのが、ここ4、5年ぐらい前の話なんです」(小幡)

 とはいえ、世間の意識がすぐに変わるわけではありません。まだまだ転換期ですが、コロナの影響でオンライン授業が拡がり、学校行かなくても勉強できるという理解が拡がりつつあるのは不幸中の幸いと言えるかもしれません。

ゲームをやると頭が良くなる!?

 しかし、ゲーム悪玉論は拡がり続けています。「ゲーム障害」という用語を使った久里浜医療センターの「ゲーム時間制限で治療できる」説を無批判に紹介するテレビ番組等、親が納得しやすい言説が流れています。

「親世代には結構ね、『ゲームやネットを使うのを止めて家族で語り合おうよ』とか言われるともう、そうだよねって言っちゃうんですよ」(赤松)

「いや、もう僕だったら発狂しますけどね」(小幡)

 小幡さんが立ち上げた会社ゲムトレは囲碁や将棋教室のゲーム班で『フォートナイト』『マインクラフト』等を教えるスクール事業で、ゲーム時間制限論とは逆の教育効果が生まれているそうです。

「1カ月に1,500回ぐらいオンラインで教えて、これは不登校の子たちがたくさん使ってくれてるっていう感じですかね」(小幡)

 ゲームを教えるといってもプロゲーマー養成講座ではありません。

「ゲームって頭よくなるよねとか、チーム組んで戦ってプレイしていく中で、コミュニケーション必要だよねとか、そういった教育プログラムです」(小幡)

 小幡さんによるとゲーム以外のところにも効果が出ているそうです。

「うちの生徒の声で、分かりやすいのは『ゲムトレ始めて学校の成績上がった。やっぱ頭良くなる』と。地頭というか、考える力が強化されるところはあると思います。親御さんからも『最近うちの子すごい頭良くなったなって感じる瞬間ありますね』と」(小幡)

「ゲームと勉強は似てるんですよ。最初に簡単なことから入ると。で、徐々に難しくなっていって、短期的なゴールがあると。そしてやっていて楽しいことが重要です」(赤松)

 小幡さんはゲームのチュートリアルが教育者の参考になるのではと提案します。チュートリアルは、ゲームを楽しんでもらうために簡単なところから初めて、成功体験を与えて、やる気を出させて次のステップに進めるように作られているからです。

 ゲムトレを通じて、子供の生活、学習力、コミュ力が改善され、学校に戻れることもあって、親御さんのゲームに対する見方も変わってきます。ただ小幡さんの「成功」を見て、「小幡さんのようになりなさい」のような発想になる親御さんも出てきます。しかし、小幡さんの体験(「昼夜逆転しなかったのは朝ゲーをやっていたから」「学校行かなかったけれど勉強はしたし、学校外で友達を作れた」「学校でやってることを他のところでもやれる」)は自分の子供、家庭を考える上で大きな「学び」になるでしょうが絶対的なものではありません。それぞれの環境はみんな違います。

「ロールモデルがいっぱい増えたらいいなと思うし。僕はそれを発信しますよ」(小幡)

 ゲムトレではゲームが上手い子を30人採用してトレーナーとして子供たちの指導をしてもらっているそうです。これは「ゲームトレーナー」という新しい職業を作る試みとしても、ロールモデル創出としても要注目でしょう。

 小幡さんは2018年から「不登校は不幸じゃない」という取り組みを始めています。「不登校であることを肯定した上で、学校以外の遊び場みたいな場所を作ってあげる」というコンセプトで全国100人の主催者が不登校当事者、経験者を集めた座談会を開催するというイベントです。方向性だけ同じにして主催者たちが自分の個性や地域性に合わせて多様な価値観で行い、全国で2000人が参加したそうです。

 小幡さんの活動実績はゲームと子供たちと社会を考える上で、非常に示唆に富んでいます。今後とも情報を共有し、互いに協力していければと思いました。

編集協力:永山薫
協力:赤松健サポーター有志