1980年代前半。私が中学生の頃ですが、マイコン(今のパソコン)ブームというのがありました。NHK教育テレビで「マイコン入門」が始まり、マイコン雑誌『I/O』や『ASCII』『RAM』など、全国のマイコン少年が読みあさっていたものです。
その主な目的は、もちろんゲーム!
当時はイトーヨーカドーの家電売り場にPC-8001やベーシックマスターJr.が置いてあり、それらのマイコンへ「雑誌に載っているマシン語リスト」を一日がかりで手で打ち込み、タダでインベーダーを遊ぶという作業を延々とやっておりました。今では信じられない手間ですが、私世代のマイコン少年はみんな心当たりがあるでしょう。
当時は秋葉原のラジオ会館がマイコンの聖地で、NECのBit-INNがあり、海外ではアップル2のゲームが憧れの的でした。やがて私は塚越一雄氏の解説本でZ80のマシン語をマスターし、高校2年生のときにPC-8801用のアクションRPGを作ってBOTHTEC社に持込み、全国発売にまで至った経緯があります。
そういった古いゲームに対するロマン。そこから出てくる新しい発想。どちらも非常に大切なものです。しかし過去のゲーム機やゲームソフトは、どうしても時代の流れと共に失われていく運命にあります。
これらを何とか、正しく過去に残し、未来へ活かせないか。
そんな私の夢をツイッターでつぶやいたところ、大変な反響がありました。
議員当選の赤松健氏が“過去のゲームの合法的保存”に着手。あらゆるゲームをプレイ可能な状態で後世に残す(AUTOMATON)
はっきり申し上げまして、現在こういった過去ゲームのアーカイブ(データを安全に保存しておくこと)は、残念ながら海賊版サイトがその役割を担っているのが現状です。
しかしこれでは、
⚫︎ 内容が正しいのかどうかチェックできない
⚫︎ 権利が残っている場合に適切なマネタイズにつなげることができない
⚫︎ 海賊版業者に、アーカイブの誇りと広告料を延々と渡すことになる
それに対し、現在最も実現可能性の高い「プレイ可能な状態での、過去のゲームの合法的保存」ができるのは、やはり国立国会図書館ということになるでしょう。
理由は以下の通りです。
⚫︎ ゲーム会社には倒産の危険性があるが、国立国会図書館は倒産しない
⚫︎ 「納本制度」はゲームも対象で、ゲーム会社からどんどん納められる
⚫︎ 国立国会図書館は、一定の場合、権利者の許諾なしに著作物を複製できる
⚫︎ 納本制度だけでなく、一般人からゲームを寄付することもできる
しかし
1. ゲーム機自体が、経年劣化(故障など)で使えなくなる
2. ゲームソフト自体も、経年劣化で読めなくなったりする(喫緊の課題)
ことから、私のイメージでは、
⚫︎ ゲームのエミュレータ(特定のゲーム機の機能を模倣するプログラム)の使用も視野に入れる
⚫︎ 経年劣化に弱いメディアから優先的に、適切なマイグレーション(例えば伝統的なメディアから近代的なメディアへデータを移行すること)を行う
⚫︎ コピープロテクトの合法的な解除を行う
ことが必要です。
エミュレータ使用、マイグレーション、プロテクト外しは、技術的・法的には可能であっても、常識面・運用面でなかなかにハードルが高く、これまでの「ゲーム保存」はここで立ち往生することが多かったと言えます。
しかし、今の私は国会議員ですので、これを超えることが出来るかも知れません。
そこでまず、「これまでゲーム保存に関わってきた団体や人物」と「代表的なゲーム会社」に対して、「こういうことを始めるが、どう思うか」と仁義を切ることが大切と考えました。
ここから、私(と仲間の)「過去ゲームのプレイアブル保存への長い旅」が始まります。
(1)まずは、デジタルアーカイブ学会の有志を集め、今後の方針案を検討しました
(2)そして弁護士の皆さんと、法的な側面から検討
(3)まずゲーム基盤の保存団体「ゲーム文化保存研究所」へ
(4)パソコンゲームのフロッピーディスク保存が専門の団体「ゲーム保存協会」へ
(5)立命館大学ゲーム研究センターへ
(6)国立国会図書館のゲーム棚を視察
(7)大手ゲーム会社との意見交換
この他に、日本の主な大手ゲーム会社と意見交換を行うことができました。
(8)海外視察
そして海外視察も行いました。まずはフランスと韓国です。(これまでにゲーム保存に関する海外視察を行った日本の国会議員は、赤松だけと思われます)
フランス視察では、有名なBnF(フランス国立図書館)を訪問し、貴重な古い書籍・資料のデジタル化状況のみならず、特にゲームに関する「保存哲学」を現場で聞いてまいりました。保存手法だけでなく「何のために保存し、どんな意義を最優先しているか」という哲学です。
そこで分かったのは、「BnFで所蔵しているものは、フランス国民がアクセスできるべき」という基本的な考え方です。「著作権保護も大切だが、適切に保存をして、それをアクセス可能にするという使命の方が、より高いレベルにある」と断言しておりました。これは即ち、「納品されたゲームを、国民がプレイできるようにしておくべき」ということです。
また、古いゲーム機のゲームソフトは、前述した「エミュレータ」を使い、場合によっては「コピープロテクトを外した」ゲームソフトのデータを、「マイグレーション」してプレイアブル保存していました。「エミュレータには違法なROMコピーが内蔵されているのではないか?」との質問には、「フランスでは例外的に使用が許可されている。自分たちの所蔵物にアクセスできるためのものであり、その使命の方が優先される」とのこと。もちろん図書館内でしか利用できないし、スクリーンショットさえNGの、研究目的の制度となっています。
ゲーム保存の担当官によると「当時のゲームの100%再現ではないが、逆に研究者にとっては、すぐ気になる部分をプレイできたり、ポーズできたりと、便利な面もある」と前向きです。考えてみれば、あるゲーム会社が100年後も存在するかどうかと言うと、かなり微妙なのですが、フランスとBnFは100年後も間違いなく存在するでしょう。その際、ゲームが残っているのはBnFの方だということになります。
また、韓国では済州島の「ネクソン・コンピュータ博物館」を視察しました。
ここはレトロPCもゲーム機も「当時の実機を使える」事にこだわった民間の博物館で、ソードM5だろうがAtari2600だろうが、実際に起動し遊ぶことができます。これは大興奮です! Apple2ゲームも5インチFDの商品現物を使っていて心配ではありますが、徹底しています。
収穫は多く、特にゲーム保存で悩みの種だった「ガラケー専用ゲーム」と「MMORPGのバージョン違い」について、ある種の回答を得ました。前者は「ゲームを入れた携帯電話本体をそのまま集める」こと。ネット接続不要ならこれでゲーム保存できることになります。後者は「ゲーム会社が意識して全バージョンを保存する」こと。安易な結論ですが、それ以外では保存は難しく、ネクソン社は実際にその方向性で努力しておりました。
ゲーム機の実機を使っているため、故障は自力で直すか、代替機を多く用意するしかありません。未来永劫続けられる形ではないため、レトロPCマニアは早いうちに来場するべきでしょう。
さて、ここからが私、国会議員である赤松健の出番となります。
参議院で、こういった「(ゲームを含んだ)文化」の「アーカイブ」となりますと、私の所属する文教科学委員会で扱うべき案件となります。
いきなり(エミュレータなど)高度な要請を行っても政府答弁が混乱するでしょうから、まずは「ゲームの振興及びプレイアブル保存について」質問いたしました。
赤松の質問:
令和5年3月24日閣議決定されました「文化芸術推進基本計画第2期」の前文に「現代的な、美術・音楽・演劇・舞踊等の芸術、映画・マンガ・アニメーション・ゲームといったメディア芸術」という記載があります。もともとの案では「ゲーム」は入っていなかったのですが、入れていただきました。
そこで、今後5年間でゲームの振興という点について政策としてどのようなことを考えているか、文化庁、お示しください。
文化庁の答弁:
第二期文化芸術推進基本計画の前文には、映画、 漫画、アニメーション、ゲームといったメディア芸術は、世代を問わず人々の心を捉え、我が国の文化芸術の幅の広さ、奥深さ、質の高さを示しているとその重要性が記載され、今回新たにゲームも明示されたところでございます。文化庁におきましては、ゲームを含めたメディア芸術の振興・発展を図るため、将来を担うクリエイターの育成、散逸・劣化の危険性が高い中間生成物の保存等の調査研究、所蔵館等におけるアーカイブ等の取組への支援、メディア芸術データベースの整備等に取り組んできたところであり、引き続きこれらの施策を推進してまいります。
赤松の質問:
文化芸術振興という観点からは、新しいゲームを世に送り出す、これも重要ですが、古いゲームを残していく、しかもプレイ可能な状態で保存することもまた非常に重要だと思っています。私は漫画家出身でゲームソフト開発もしたことがありますので、クリエイター目線で言いますと、古いゲームにインスピレーション受けて新たな創作活動に生かされる、ということがあります。ゲームはメディア芸術であるとともに技術でもありますので、技術の伝承という観点からもプレイ可能な状態での保存と利活用は大事です。もちろん権利者への配慮、保護は大前提です。
そこで、このようなゲームのプレイアブル保存・利活用について文部科学大臣の所見をお聞かせください。
文部科学大臣の答弁:
確かに、昔のゲーム、まだやりたいと時々思うこともございますよね。そのことに関しましては、文部科学省におきましては、これまでも様々な施策を実施する中で、ゲーム業界の関係者の皆様とも意見交換等を行なっております。その中で、例えば、物の保存に留めずに、ゲームを再現することによりましてその価値が生きるですとか、また過去のゲームもプレイできた方が良いため、それが実現できることが望ましいといった、ゲームのプレイアブル保存・利活用についてのご意見などもございました。今後も関係者、関係機関等とも連携を図りながら、ゲームを含めた我が国のメディア芸術の振興、発展に努めてまいります。
赤松の質問:
パッケージのゲームソフトに関しては国会図書館の納本制度の対象になっていますが、その収集状況はどうなっていますでしょうか、国会図書館にお答えをお願いします。
国立国会図書館の答弁:
パッケージ版のゲームソフトにつきましては、平成12年10月以降に、国内で発行されたものが、納本制度による収集対象となっております。令和4年12月時点での収集点数は、平成12年以降に発行されたものが約6800点、同年より前に発行され寄贈により受け入れたものが約400点で、合計約7200点でございます。年間に数百点ほど収集しております。なお、国内における発行数を網羅的に収集、把握することは困難でございますが、例えば、文化庁の「メディア芸術データベース」には、平成12年以降の物理パッケージのゲームとして約2万件が登録されております。納本制度の対象となるものが、パッケージ版のゲームソフトのうち納入されていないものの収集につきましては、納入実績がないゲーム会社等に対して納入依頼を行い、国立国会図書館への納入につながるように努めてまいります。
赤松の質問:
ゲームのプレイアブル保存・利活用について、今後どうしていくか、国会図書館さん、その所見をお示しください。
国立国会図書館の答弁:
国立国会図書館では、収集したゲームソフトは、書庫に収蔵し、保存のために細心の注意を払って管理しております。利活用につきましては、実際のゲーム機を用いてプレイアブルな形で提供することを一部のゲームソフトに対して試行的に行っております。今後は、ゲームの調査研究の目的に応えることができるように、ゲーム機の種類を増やすなどの利用環境の整備を進め、資料の保存に引き続き配慮しつつ、提供対象を広げていく予定でございます。
赤松の意見、最後の部分:
ゲームの調査研究の目的でないと館内でプレイできないのですが、先ほども申し上げた通り、古いゲームの内容や技術にインスピレーションを受けて新たなゲーム開発につなげる、ということも大事だと思いますので、そういった新しいゲームの開発目的でもプレイ可能になるように、目的の範囲も広げることも検討してほしいと思います。
私からの質問はこれで終わります。
さて、最初に語った私の「夢」から、国会での質疑応答まで、10ヶ月の道のりでした。これが早いか遅いかは分かりませんが、今後も着実に、「プレイ可能な状態での、過去のゲームの合法的保存」の実現について、邁進してまいります。
以上