2022.4.16

国連女性機関による「月曜日のたわわ」全面広告への抗議表明について

 4月4日、講談社「週刊ヤングマガジン」で連載中の漫画『月曜日のたわわ』が、日経新聞に全面広告を出しました。当該広告は、同漫画の新刊が同日に発売されることを宣伝するものでした。
 この是非を巡ってはインターネット上で物議を醸しておりましたが、同月15日に国連女性機関(以下「UN Women」)が当該広告に抗議を出したとの報道がありました。

国連女性機関による「月曜日のたわわ」全面広告への抗議表明について

 私は、この抗議は典型的な「外圧」であって、表現の自由を守るために徹底的に反対しなくてはならないものと考えています。
 以下に、当該抗議の問題点と私の考えを述べます。

1:「アンステレオタイプアライアンス」加盟規約違反に基づく広告掲載基準の見直しの要求は表現規制ではないか?

 今回の記事で、UN Women日本事務所の石川雅恵所長は、今回の「月曜日のたわわ」の全面広告が、日経新聞が加盟する「アンステレオタイプアライアンス」の加盟規約に違反すると述べています。アンステレオタイプアライアンスとは、UN Women日本事務所HPによれば、「メディアと広告によってジェンダー平等を推進し有害なステレオタイプ(固定観念)を撤廃するための世界的な取り組み」と説明されております。

 石川所長は記事の中で、今回の抗議は、規約違反への異議申し立てに過ぎず、「国連機関が一般の全ての民間企業の言動を監視し、制限するわけではありません」と言っています。しかし、同記事によれば、UN Women本部は、「『3つのP』に反する広告を掲載したことも問題視し、同社(※筆者注:日本経済新聞社)の新聞広告の掲載基準の見直しを求めた。」とあります。「3つのP」とは、アンステレオタイプアライアンスが定める原則「Presence・Perspective・Personality」のことです。
 「新聞広告の掲載基準の見直し」とは、「現在掲載すべきでない広告が掲載されている、この広告を通した基準を見直せ」というものに他なりません。「現在掲載すべきでない広告が掲載されている」というメッセージを含んだ新聞広告の掲載基準の見直し要求について、これのどこが「制限」(=表現規制)にあたらないというのでしょうか。

 4月16日現在、「アンステレオタイプアライアンス」の加盟規約がどのような内容なのか、日経新聞社がUN Women と交わした覚書がどのような内容なのか、同社が「月曜日のたわわ」の全面広告を掲載したことが規約や覚書のどこに違反しているのか、そもそも新聞広告の掲載基準の見直しは本当に「規約違反」を原因として要求されたのか等、分かっていない点も多々ありますので、詳細な事実確認が必要です。

 しかし、アンステレオタイプアライアンス及びそれに定められた「3つのP」原則を理由とした表現規制の姿勢を取ることは、以下に示す石川所長の過去の発言とも矛盾しているようにも思われます。この規約およびその違反に表現規制を行えるだけの効果があるのか、疑問です。(文字協調は筆者による。)

「誤解を招かないように申し上げますと、アンステレオタイプアライアンスは炎上する広告を作らないためのネガティブチェックをしているわけではありません。ポジティブで深みのある広告を検討するための視点として、3つのPを示しているのです。」

https://www.daiwahouse.co.jp/sustainable/sustainable_journey/interview/ishikawakae/

 私は、ジェンダー平等の推進も、そのために有害なステレオタイプの撤廃という手段を取ることにも異は唱えません。しかし、創作物及びその広告もこの規約の射程範囲として捉え、表現規制し蓋をすることは「ジェンダー平等の推進」に繋がっているのでしょうか。

 次に述べるように、仮に規約違反に基づくものであろうとそうでなかろうと、今回のUN Womenによる創作物及びその広告の表現規制には、合理的な根拠がないものと考えます。

2:「月曜日のたわわ」の広告は「性的搾取の奨励」か?

 今回の記事では、石川所長は、次のように述べています。
 今回の広告が、「学校制服を着た未成年の女性を過度に性的に描いた漫画の広告」だから、これにより、「『女子高生はこうあるべき』というステレオタイプの強化につなが」り、さらに、「男性が未成年の女性を性的に搾取することを奨励するかのような危険」も発生する。これが今回の広告の問題点であると。

 なぜ創作物及びその広告が、ステレオタイプの強化につながり、性的搾取を奨励することになるのでしょうか。
 創作物の内容が何であれ、その内容やその創作物の中で起きていることを、それを読んだ人間が起こしてしまう危険があれば、我々創作者は何も書く/描くことはできません。現実で、マンガが戦争を助長したとか、殺人を奨励したなんて話は聞いたことがありません。なぜ、女子高生を描いたマンガに限っては、こんな不合理な規制の根拠を高らかに主張されるのか。合理的な理由や科学的な根拠を示してほしいと思います。

 記事の中で石川所長が言うような、創作物それ自体によってステレオタイプが強化されるとか、性的搾取が奨励されるという考えに根拠は無いように思えます。
 それにも関わらず、創作物の広告を規制することは、広告(営利的表現)のみならず、創作物それ自体の表現の自由をも侵害するものです。なぜなら、創作物の広告を規制することは、広告の受け手においては創作物を享受する機会を制限し、創作物の表現者においては創作物を享受させる機会を制限し、表現の自由の価値である自己実現の価値を双方に失わせるからです。

3:まとめ

(1)「アンステレオタイプアライアンス」の目的であるジェンダー平等の推進に異を唱えるつもりは無いが、同取り組みの加盟規約違反によると思われる広告の掲載基準の見直しを含んだ今回の抗議は、表現規制である。

(2)今回の広告に抗議する前提とされている、創作物による「ステレオタイプを強化」「性的搾取の奨励」という主張には全く根拠がなく、今回の抗議は不当な表現規制である。

 いま現状では、記事内のUN Womenの抗議文及び規約・覚書の内容の詳細が不明であることや、同抗議についてUN Women自身による一次情報が無いことなど、全貌が明らかになっていない部分があります。

 今後も、私はマンガ・アニメ・ゲームのクリエイターとそれらを愛する全ての人のため、今回の件についても詳しく調査し、不当な表現規制に対しては断固反対していくつもりです。

赤松健