この記事を3行で要約すると

・TPP協定という12か国が結ぶ協定で著作権法の非親告罪化という内容があった

・著作権法の非親告罪化により、コミケなど二次創作文化は壊滅する危機だった

・赤松を含めた関係者の尽力で、その危機感を政界に必死に伝え、非親告罪化を回避し、コミケなど二次創作文化は守られた


こんにちは、赤松健です。

今回は、今では皆さんおなじみの著作権法について、私のロビイング活動について語ります。

ロビイングとは、簡単に言ってしまえば、法律の内容について「こういう方向性がいいんじゃないか」と議員や政界に対して意見を述べたり活動をしたりという働きかけをすることです。

私はこれまで、著作権法非親告罪化により日本の二次創作の危機であった2016年TPP協定、海賊版対策のはずが私的なネット利用で逮捕される恐れがあった2019年、2020年の静止画DL違法化、それぞれにおいてロビイング活動に尽力しました。

私は二次創作畑で育った人間でもありましたし、商業漫画家でもありましたし、そして漫画家では非常に珍しい、マンガ・アニメ・ゲームに関する権利やビジネスに物を言い続ける人間でした。

二次創作にお世話になった人間や漫画家として活動していた人間こそが声を上げねばならない時、誰かが意見を言わねばならない時に、前線に立って意見を言い続けてきました。

今後も、著作権法に限らず、日本のマンガ・アニメ・ゲームの発展を阻害するような法律が不当に生まれそうで、声を上げねばならない時、政界で語らなければならない時に、私のこれまでの経験は必ず役に立つものと考えています。

コミケやマンガ・アニメ・ゲームの危機!!TPP協定による著作権法の非親告罪化とは

TPP協定とは?

TPP協定について、聞き覚えのある方は多いのではないでしょうか。

TPP協定とは、環太平洋パートナーシップ協定のことで、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの合計11か国で締結される経済連携協定です(当初は米国も交渉)。

一般的には関税をほぼ撤廃する条約だと理解されていますが、実はその内容にとどまりませんでした。円滑な経済連携のため、契約書の書き方など、グローバルスタンダードを作って確立しようということも主たる目的です。

その「グローバルスタンダード」の1つとして、著作権の取り扱いも統一しようという交渉も進められていました。そして、統一が試みられた著作権の取り扱いの中に、問題となる「非親告罪化」も含まれていました

非親告罪とは?

「非親告罪化」の説明もしますね。

「非親告罪化」とは、文字通り親告罪ではなくなるということです。じゃあ親告罪って何?という話になるでしょう。

実は2016年当時、著作権法違反となったとしても、直ちに警察に逮捕されるような法律にはなっていませんでした。すなわち、警察が著作権法違反で動くためには、その被害者(著作者)が警察に訴え出ることが必要でした。このような、警察が動くために被害者の訴えが必要な犯罪を「親告罪」と呼びます。

当時、著作権法違反も親告罪だったのですが、これがTPP協定締結により非親告罪化するという情報が出ていました。一般に、条約は国内法より優位に立つと考えられているため、条約で定められた内容は基本的に国内法にそのまま反映されてしまうのです。

二次創作やコミケは「文化のゆりかご」

じゃあ著作権法違反をしなければいいんじゃないの?と思われた方も多いかもしれません。しかし、既存のマンガやアニメのパロディ同人誌などいわゆる二次創作や、そういった作品に出てくる衣装をコピーしてコスプレすることは、厳密に言えば著作権法違反の場合もあるのです。

では、なぜ著作権法違反の可能性があるにもかかわらず、コミケに代表される同人誌即売会の二次創作やコスプレ文化が発展しているのかと言えば、権利者があえて訴えていないということなのです。

著作権者も、そういった二次創作やコスプレなどファンメイドな作品が生み出され、ファンコミュニティが盛り上がれば、それだけ原作の知名度・人気が上がり、ひいては売り上げが上がることが期待できます。そして何より、単純に「二次創作同人誌を描いてもらって嬉しい」と感じる著作権者も多いのです。

二次創作者も、二次創作の活動を通じて技術を磨くことができますし、原作の著作者自身もそうして腕を磨いてきた人も今は多いのです。何を隠そう私も、セーラームーンの同人誌を描くなど、この文化のゆりかごに育てられてきた人間の一人です。

 いわば著作権者と二次創作者達との阿吽の呼吸により、日本のマンガ・アニメ・ゲーム文化は発展してきたのでした。

「文化のゆりかご」を崩壊させかねない「非親告罪化」

 ここで、「非親告罪化」を思い出してください。

 「非親告罪化」とは、著作権法違反となる行為について、権利者の訴えなく検察官が勝手に起訴できる法制度でした。

 「非親告罪化」が実現してしまうと、せっかく著作権者と二次創作者の阿吽の呼吸による絶妙なバランスで成り立ってきた二次創作やコスプレという文化のゆりかごが、著作権者の意図と関係なく取り締まりの対象となってしまうのです。

 コミケ内で、気に入らないサークルがあった時に「非親告罪」を悪用して通報して、警察に取り締まらせる人も出るかもしれません。そうでなくても、ノルマ目的の警察が勝手にやってきて取り締まりをする可能性だって十分に考えられるでしょう。

 何より、こうした通報や取り締まりが机上の空論に過ぎず、実際には1件もそういった事例がなかったとしても、二次創作者やコスプレをする人達はどう思うでしょうか。いくらコミケのような二次創作文化を楽しみたかったとしても、警察に捕まるリスクを負ってまでやる人はほぼいないでしょう。「非親告罪化」が成立した時点で、二次創作文化の萎縮、表現の萎縮は避けられなかったのです。