赤松健のスペース・ダイジェスト、今回は大阪大学の井出草平先生をお招きした「なぜゲームは悪者にされる? 〜ゲーム障害について井出草平先生に聞く 〜」(4月11日)です。

 井出先生は社会学者で精神医学も研究しておられ、近年のゲーム悪玉論に対しては鋭い論理と学識で反論を重ねています。最近ではNHKの「サイエンスZERO」(4月10日放送)の偏った内容をTwitterで厳しく批判し、幅広い賛同を得ました。赤松は、山田太郎議員とともに、ゲーム政策がエビデンスに基づいて行われるよう、関係する全府省庁にご出席いただいて「ゲーム障害勉強会」を開催していますが、井出先生はそのアドバイザーも務めてくださっています。

ここがヘンだよゲーム悪玉論

 近年、注目を集めているのは、「ゲームの長時間プレイは青少年の精神に悪影響がある」というゲーム悪玉論です。「ウチの子はゲームばかりして勉強しない」とお悩みの親御さんにとっては大きな朗報で、地方自治体や教育委員会レベルでも賛同の声が上がり、ついには香川県でゲーム時間規制に関する条例が成立する事態になりました。

 「長時間プレイするから、ひきこもり、依存症、精神障害になる」という因果関係は正しいのでしょうか。逆に「ひきこもっているからゲームをする」と考えた方がしっくりきませんか?学校になじめずに家でゲームに没頭する。しかし、ゲームを介して社会とつながり、友達もできた。そういう子どもたちにとってゲーム時間規制は正しい対応でしょうか?

 長時間プレイやネット接続を「ゲーム障害」として論じたのが、「サイエンスZERO」にも出演した久里浜医療センターの樋口進院長です。同番組では次のやり取りがありました。

藤本美貴「身近にあるゲームとかネットが覚醒剤と同じくらいって、ゲームとかって本当に日常的だから怖いなと思いました。」

樋口進「仕組みはよく似てます」

 これに対し井出先生は「多分ドーパミンの話だと思うんですけど」と前置きします。ドーパミンとは快楽や幸福感に関わる脳内物質の一種で、確かにドラッグを摂取したり、ゲームをしたりする脳内で増加することは事実です。ゲームの場合は約2倍に増えるそうです

が、井出先生によれば、ご飯を食べる時でも1.5倍から1.7倍増えるということですから極端に高いとはいえません。

 現時点では「ゲーム障害」は厚労省では病気として認定していませんし、WHOのICD-11(国際疾病分類)でもGaming Disorderは慎重な扱いになっています。樋口院長をはじめとする一部の人たちは積極的に「病気」として治療の対象にすべきだとWHOを含む各方面に働きかけを行っています。

 信念があってのことでしょうが、長時間のゲームプレイとの因果関係の精査が不十分ですし、そもそも治療法も予防法も確立していません。

 井出先生によれば樋口院長はアルコール依存症の研究からスタートし、NHKとパイプができて、そこからギャンブル依存症を経て、ゲームとネット依存に取り組んでいるそうです。ただ、そこには精神科の診療報酬問題も絡んでくるようです。アルコール依存症も統合失調症も減ってきて、その分の診療報酬が減っています。認知症患者を受け入れるという方法もありますが、統合失調症よりも患者の抵抗が強く、衛生管理など手間がかかります。

「インターネット依存症、ゲーム障害は非常に楽ですね。病院で隔離してしまえばネット依存はなくなってしまうということで非常に楽で儲かる。新しい患者さんの掘り起こしという点では非常に有望視されているというのが実態ですね」(井出)

 隔離すればネットもゲームもできないから一時的に治癒したようには見えます。このパターンでデジタル断ちする「デジタルデトックス」という言葉も流行していますが、井出先生は「全然効果がありませんよ、というのは、ほぼ科学的には確定しています」とバッサリ。むしろ、学校でのいじめとか、ひきこもりやゲームにのめり込むようになった原因を調べた方が効果的だと思うのですが……。

海外のゲーム規制

 日本では漫画、アニメ、ゲームに対してラディカル・フェミニズムや過剰なジェンダー論の文脈(ジェンダー平等の実現とは無関係な文脈)で『月曜日のたわわ』や「戸定梨香」が叩かれたりするわけですが、炎上して、良くも悪くも議論になります。しかし、井出先生によると、アメリカでは、暴力的なゲーム批判の方が強く、バイオレンスゲームが高校の銃乱射事件の原因だという考えが根強いのが現状そうです。その方向からのゲーム規制の動きにはアメリカの任天堂(Nintendo of America Headquarter)をはじめゲームメーカーが強力なロビー活動を行って対抗していますが、日本国内ではそうした活動は見られません。

 もっとも、アメリカでは日本以上にフェミニズムが盛んなため、この先、「ポルノは理論、レイプは実践」のようなアンチポルノによるゲーム規制論が盛んになることも予想されます。

 井出先生は『カスターズリベンジ』(1982)という、南北戦争のカスター将軍がネイティブアメリカンの人をレイプするという有名なクソゲーに対して有名なフェミニストのアンドレア・ドゥオーキンが「ネイティブに対するレイプが増えた」と主張した例を挙げています。ファミコン以前の稚拙なドット絵で影響が出るわけもなく科学的エビデンスもないわけですが、「そこに女性の置かれている不平等さを見出だしてくるということは可能と言えば可能なので、男女の不平等さを見出している方というのはおられるでしょう」(井出)ということです。なので、いざという時に対応できるようにしていく必要があります。

ゲーム障害勉強会

 正しい科学的知見をもとにゲーム政策を検討しようという「ゲーム障害勉強会」には、赤松の他に山田太郎議員、井出先生、関係する全府省庁の担当者、各テーマごとの専門家などが参加し、2021年12月21日の第1回以降、現在3回の開催を数えています(2022年6月時点では5回開催済み)。「ゲーム障害」という言葉が独り歩きし、WHOが「疾病でもなく疾患でもなく症候群である」、「ゲームが元凶であるという言い回しは不適当である」と言っていることがちゃんと伝えられていません(赤松)。こうした定義等をきちんと確認していかないと、偏った主張や報道(例えば「ネット依存症93万人」説)に担当省庁の官僚も影響を受けてしまいます。WHOも30年前には同性愛や性同一性障害を〝精神疾患〟とみなしていました。大きな影響力を持つ国際機関でも偏見や差別と無縁ではありません。

 この勉強会の存在は大変心強いのですが、井出先生も認めるように、日本においてエビデンスに基づいてゲーム政策を検討していくべきであるという勢力は、一歩も二歩も出遅れています。

「樋口さんたちは非常にたくさん本を書いてるんです。20年ぐらい前からインターネット依存とかの問題に取り組んで、〝ゲーム障害〟を自分の手柄で診断名にしたというぐらいにのめりこんできたので、まあ何年も前から用意をしているんですよね」

 その結果、「ゲーム障害」について勉強しようとすると、見つかる本はほぼ樋口院長系の言説が中心になっていて、勉強すればするほど、そちらに傾倒していくことになります。これに対抗していくことは簡単ではありませんが、ゲームだけではなく漫画やアニメ表現の規制論にもつながっていきます。地道に正しい知見を周知徹底していくことが重要です。

編集協力:永山薫

協力:赤松健サポーター有志