昨日まで、タイ王国へ海外視察に行っておりました!現在、タイでは政治的な混乱が続いており、つい先週も民主派の最大野党「前進党」が憲法裁判所から解党を命じられたところです(選挙公約で、不敬罪の改正を掲げたことから)。また、私がタイの国会議事堂を訪れたのは、新首相のペートンタン氏(37)が議会で選出された直後で、そんな大変な時期に視察を受け入れて下さった関係者の皆様に感謝いたします。
ちなみにタイと日本は時差が2時間しかなく、飛行機も6時間程度で到着するので便利です。 今回の視察の主な目的は、
- タイにおける日本文化(特にポップカルチャー)の受け入れられ方
- 市場としての将来性
- タイもKOCCA(韓国コンテンツ振興院)と似た機関を作ったがどんなものか
- タイの美術館、博物館はどんな感じか
などを直接調べることです。コンテンツ関連はセンシティブな要素も多く、現場に行かないと分からないことが多いですね。今回の視察でも、議員としてよりもクリエイターとしての立場が役に立つことが多かった印象です。
初日(1):アニメイトバンコク店
初日から、早速「アニメイト」のバンコク店へ!(タイに2店あります)
後述しますが、タイではBL(ボーイズ・ラブ)ジャンルが非常に強く、商品も充実しているのですが、もちろん日本の少年漫画やアニメグッズなども十分な品揃えでした。グッズは特にタイ語にローカライズされているわけでもなく、Tシャツもアクスタも日本の商品そのままが並んでおり、聞くと「日本語の方がかっこいい。タイ語を入れると海賊版っぽい印象が出る」とのことでした。アニメイトカフェやイベントスペースもあり。
スタッフの方々にお話をうかがいました。
Q:年間の来客数を教えて下さい。
A:レジを通過した人は、近年の平均だと月に約14,000人くらい。年間では2023年は17万人、2022年16万くらい。16年は10万回のレジ通過だったので、増えている。
Q:客層(年齢・性別)を教えて下さい。
A:男女半々くらい。男性は本の購入が多い。女性は本も購入するが、グッズを買う傾向がある。客層は10代が約30% 20代が約50%くらい。
Q:タイでのBLの人気度や、表現規制などについて教えて下さい。
A:タイではBLが凄く流行っている。特にBLドラマは注力されている。原作が小説で、それを実写にすることが多い。BLは韓国で流行っていて、それを真似て作っている。表現規制については、昔は修整が厳しかったが最近は寛容的になってきていると、個人的には感じている。
Q:タイには独自の漫画文化はありますか。ある場合、日本式の漫画との違いはありますか。
A:タイ独自のものはないと思う。日本の漫画をお手本にしている。最近はWebtoonが流行ってきている。体感としては、最近のタイ人クリエイターの作品はWebtoonが主流のような気がする。3割くらいがWebToonという感覚。集英社のMANGA+のタイ語版も流行っている。
Q:タイでの海賊版について教えて下さい。
A:最近は減ってきたが、昔はすごかった。紙の海賊版もあった。2000年くらいまで多かった。正規版が出ていないものを海賊版で読んでいたが、海賊版取り扱っていた店は、書店が減ると共に減っていった。
Q:電子と紙はどちらが多い?
A:電子版と紙を比較すると、紙は減っていると思う。紙を購入するのは特典狙いとかコレクションとして購入、あとは電子に慣れていない人など。
このアニメイトが入っているショッピングセンター「MBK」内は、日本料理店や日本型居酒屋が非常に多く、ドンキやメイドカフェまで揃っており、日本文化全般の人気の高さが分かります。タイはこれまでも市場として有望だったし、今後も期待できるとしか言い様がありません。ただし中国や韓国も進出しているので、より一層努力しなくては。
初日(2):True Digital Park
続けて、タイ最大の財閥であるCPグループのご厚意で「True Digital Park」を視察。スタートアップ企業や投資機関、図書館や会議室からアートギャラリーまで、タイの将来を担う要素をスタイリッシュに内包している施設です。
Q:True Digital Parkの全体像を教えて下さい。
A:タイのスタートアップ支援など、様々なことを行っている。小さな街を作ろうとしている。オフィスもあり、居住もあり、買い物もできる。若者とスタートアップをターゲットにしている。この建物の中にいる人材を発展させたい。スタートアップや、自分のビジネスをしたい若者、そのようなコミュニティーを育てたいと考えている。建物の広さ、デザインにも力を入れている。東南アジアトップレベルのものだと思う。建物というよりキャンパスと呼びたい。
Q:どれくらいのコミュニティーがありますか?
A:この建物の中にプレイヤーが6000人弱。実際に建物にいるのは300~400社くらいのスタートアップ。多いのは流通系、E-Commerce、Payment。
Q:もともとの設立経緯は?
A:スタートアップの「家」とすること。その「家」が解釈されてこのような施設が作られた。どんな家に、誰が住むのか、ということを課題として考えてきた。構想は8~10年前から。
Q:政府支援はあるのでしょうか?
A:政府の資金援助はないが、例えばここがイノベーション特区となっており、スタートアップをしたい外国の人がTDPを通してビザ申請している。タイでは、政府と民間企業と距離を置くという感じが強い。日本政府のように「民間を後押し」という感じではない。ただ、ものによっては(特に電気などのエネルギー系)政府と一体になっている。
Q:外国企業も入っていますか?
A:ここ一年半の間、100名の外国の人がこちらに来ている。ヨーロッパとミャンマーがメイン。シンガポール、香港、日本、韓国など合計32カ国が、ここにオフィスを持っている。
Q:アートギャラリーもあったが、タイでは現代アートは身近なものですか?
A:身近なのは、やはりポップカルチャー。日本の漫画やディズニーなど。ただこの1~2年はポップマートも誕生し、SNS利用も人気になっている。有名人が現代アートに興味があると発信し、それによって若者が影響を受けて、芸術はより身近なものになってきていると感じている。現代アートを鑑賞したいという気持ちにはなっていると思う。
初日(3):True Visions
初日の最後は、ケーブルテレビの国内1位「True Visions」の視察です。この辺から、タイ独特のコンテンツ需用、BL人気の理由など、タイの秘密が分かってきます。またタイでは、どこに行っても赤松作品ファンが待ち受けており、非常に嬉しいです。
Q:設立の経緯は?
A:True Visionsは、もともとケーブルテレビの会社だった。今でもマーケットシェアでは国内1位。どこでも見られることを重要視していて、現在35ch持っている。デジタル時代に対応したコンテンツを色々考えている。世界中で日本のアニメが人気だが、タイでも人気である。日本のアニメだけでなくアメリカのアニメも扱っている。
Q:タイではどのようなコンテンツが人気ですか?
A:コンテンツ産業を、ドラマ・映画・バラエティ・アニメに分けると、この4つの中でタイにおいて一番基礎的なものはドラマ。タイ映画は10~20年前が一番盛んだった。そのときは色んな映画があったが、マーケットとしてみると、大きな割合は西洋のものだ。タイの映画は、プロダクションとしてはよくできているが、足りないのはストーリー性。多様性が無いことが欠点。
Q:タイでドラマはなぜ人気なのか?
A:タイのドラマの特徴は、ソープオペラ(連続メロドラマ)。ここ10年は様々な国にドラマを輸出している。主人公が民族衣装を着ているようなものは特に人気がある。理由としては、そういった歴史的な文化は、他にはない文化だからだと思う。ここ5~6年、主流になっているのはBLドラマ。「タイ沼」という言葉もある。近年タイ人は、韓流、中国ドラマ、そして日本のアニメをよく視聴している。日本のドラマはあまり見られていない。
Q:韓国ドラマのどこがすごい?
A:ドラマの要素は、プロットとストーリー、キャストが挙げられるが、韓国のプロットとストーリーがすごい。ロマンティックだけでなく、多様。さらに韓国ドラマはオチがある。展開が魅力。タイのドラマは、その点が欠点。
Q:中国ドラマはなぜ人気なのか?
A:中国ドラマは一つ一つが長く、40~60話あるものもある。それで視聴者ははまっていく。中国の強みは、撮影技術が優れていること。人気の要因は4つ。歴史関係、撮影技術、キャスト、そして衣装。
Q:日本アニメの良いところは?
A:かつては、日本アニメを見るには、日本での放送から2~3年待たないといけなかった。今はネトフリなどですぐに見られるようになった。特に「鬼滅の刃」がターニングポイントだったと思う。鬼滅が放送されてから、日本のアニメがより見られるようになった。鬼滅から呪術廻戦も人気になった。呪術廻戦は、解説しているFBのファンページから広がっていった。
Q:タイではアニメは作られていますか?
A:日本のアニメと同じレベルというと難しいが、ちょっとしたアニメーションはある。
Q:日本の映画はどうですか?
A:人気なものもあればないものもある。ただどちらかといえばアニメが人気。日本アニメを見る年齢層は、40代もいれば10代の人も見ている。男女比については、ジャンルによって違う。解説するFBページが大事。
True Visions社からのご提言として、
- True Visionsと日本の製作会社のアニメの共同製作のマッチングの機会などを後押ししていただけるとありがたい
- 短期的には、日本のアニメをTVで広げたい
- 長期的には共同で製作していきたい
という要請を頂きました。
また、タイの(海外向け)主力ジャンルはBLであり、その反響の大きさや市場規模には注目しているようです。総じて「複雑なストーリー」を作るのが苦手だったタイでしたが、若い男性俳優が美形揃いで、日本人がタイ製ドラマにハマって抜け出せない状況を指す「タイ沼」という言葉もあるくらいです。タイの文化省でも同じ認識でしたので、次は官僚(国)側の認識もご紹介します。
2日目(1):タイ王国文化省
日本と同じくむし暑いタイ視察の2日目は、まず10時からタイ王国「文化省」へ。文化省の仕事は、宗教や美術など文化に関わるもので、今回は特にコンテンツ政策に関わる部門の担当者が大勢参加して下さいました。
・・・もう最初からコミックスを持ってニコニコしている官僚の人もいて、赤松作品のファンだとすぐ分かります。
文化省視察の目的は、
- タイ政府と文化(主にポップカルチャー)の関係調査
- クリエイターなどの支援策
- THACCA関連調査
です。以下、質疑応答と意見交換は非常に興味深い内容ですので、ぜひお読み下さい。
Q:タイにおいて、コンテンツ振興は文化政策においてどのように位置付けているか?
A:40代以上だと、日本の漫画と共に育ってきたという気持ちが強いと思う。日本の漫画のみならず、ドラマ、映画、サブカルの影響を受けている。位置付けについては、タイでは、文化振興において11分野を扱っている。祭り・観光・料理・芸術・デザイン・スポーツ・音楽・書籍・映画・ファッション・ゲームだ。このうちタイ文化省が担当しているのは、芸術・映画・ゲーム・音楽・書籍の5つ。この5つの分野について、文化省の全体予算の20%を使っている。
Q:その5つの中から、特に力を入れているものを2つあげるとしたらどれか?
A:映画ドラマ、そして音楽だ。映画とドラマは視聴者がそれを見て、タイが好きになるという傾向が生まれやすい。音楽は、伝統的なものと現代音楽、両面に力を入れている。最近はミックスしたものもある。予算を一番かけているのは映画ドラマ、次にアート。アートについては、隣の建物に美術館を作る計画。タイ・ビエンナーレも行われている。書籍も大事だと思っている。なぜなら書籍が原作になり、そこから映画ドラマになる作品もある。書籍について、最近流行っているのはBL小説だ。
Q:タイのドラマは、ストーリーにバリエーションがないという意見を聞いたが、どう思うか?
A:タイの映画ドラマの一番の問題はストーリーテリング。文化省ではストーリーテリングのワークショップなどを行っている。タイ人の好みに合わせるのみならず、海外を見据えている。いままではタイらしさが強かったが、これからは国際性を目指している。
Q:クリエイターへの支援はあるか?
A:主に2つ。1つ目はアジアフィルムというイベントの中で、タイ人のインフルエンサーを招待した。インフルエンサーが、アジアフィルムのPRを行った。開会式から閉会式まで、イベントに参加した。TikTokタイランドと一緒に主催した。2つ目はセミナー。コンテンツ・タイランド・アカデミーがある。これは人材開発目的で設立された。ストーリーテリングだけでなく、プリプロや、ポスプロまで人材育成を行なっている。Webサイトで詳細確認できる。
Q:コロナ禍の支援について。特にフィルム、音楽、現代アートについて。
A:タイのアーティストのコロナ禍の問題は、アーティストはだいたいフリーランスであることだ。政府は国民に支援したが、アーティストは無職と同じように見えてしまって、支援金がもらえなかったという問題があった。そこで、職業にかかわる協会が代表して文化省と連絡をとって、そこから支援を行った。コロナ禍でオンラインのコンテンツが伸びたが、予算は削減された。ヘルスケアに予算が割かれたためだ。コロナ禍でエンタメ業界は打撃を受けた。撮影も禁止された。そこで文化省としては、オンラインプラットフォームを開設した。アーティスト支援プロジェクトも行った。
Q:アート政策について。文化省の取り組みと課題を教えてください。
A:アートは、身近なものだと考えている。服装やファッションもアート。建築や料理の盛り合わせもすべてアートだと考える。美術館やギャラリーの数も増えている。バンコク市内のみならず、地方もかなり増えている。タイのほぼすべての県で美術館がある。バンコク市内は、美術館で展示するのみならず、デパートで展示会も行っている。文化省としては、ローカルの人たちに「美術は収入に変えられる」という考え方を伝えようとしている。タイビエンナーレをチェンライ県で行った際は、その考え方を伝え、理解してもらった。
Q:博物館・美術館へはどのような支援を行っているか。
A:タイ文化省に所属する博物館美術館、民間への支援もある。作品展示提供、PRをするなどの支援も行なっている。
Q:デジタルアーカイブは進んでいるか。
A:政府は、すべてE-Documentを使わないといけないということになっている。情報センター、という形で、文化財の情報なども、情報センターに掲載している。行政機関が持っている情報をデジタル化して情報センターに送っている。
Q:韓国の文化政策はどれくらい参考にしているのか。
A:韓国からの影響かなり受けている。政策は、THACCAが存在しており、これはKOCCAを参考にして作った。
Q:THACCAに文化省はどのような形でかかわっているか?
A:THACCAに関する法律もまだ明らかにされていないのであまり話せることがない。
Q:映画支援について、映画制作会社が制作に必要な行政手続きの承認を迅速に行えるようにするためのワンストップセンターが設立される予定と聞いたが、詳しく教えてほしい。
A:まず撮影場所について。撮影する際に、さまざまな許可を取らないといけないが、THACCAがワンストップサービスを作ろうとする取り組みがある。ただ、場所には所属がいろいろあり、現時点は検討中。さまざまな部門にかかわる法律とかもあるので。ただ、バンコク市内ではワンストップになるように頑張っている。
Q:皆さんが好きな日本の漫画は?
A:忍者ハットリくん、ドラえもん、ドラゴンボール、幽遊白書など。
最後に、タイ文化省から赤松への質問もありました。
Q:日本は漫画が成功して、それが原作になってアニメ映画に発展して成功している。韓国もWebToonからメディアミックスされ成功している。日本漫画の成功のポイントは何か?
A(赤松):日本漫画に、政府からの支援金は入っていない。それなのに世界で一番と言われているのは、個人的には「表現の自由」があるからだと思っている。それにより物語のバリエーションが豊かで、表現も世界が驚くほど画期的で真似しにくいものが多く出ている。
2日目(2):国家ソフトパワー委員会
続けて、13時半からタイのコンテンツ政策を担い、THACCAを管轄する「国家ソフトパワー委員会」の視察です。ここで回答して下さった中のお一人で、タイ出版社及び書店委員会のテーラパット・チャロンスック氏(着物を着ている人)が果てしなくオタクで、日本のコミケにも毎年来ているとのこと。でも偉い委員なのです!
赤松は、韓国のコンテンツ振興院(KOCCA)に昨年から興味を持っており、それを習ったと思われるタイのTHACCAはどんなスタートを切ったのか、調べたいと思っておりました。
Q:国家ソフトパワー委員会の構成は?
A:11分野ある。11分野の中のそれぞれがトップタレントを育てようとしている。各チームの人数は分野によって人数違うが、書籍は12人。映画・ドラマは、それぞれ20人弱。
Q:書籍の12人の特徴的な仕事は?
A:例えば作家協会の人や、翻訳通訳協会、小さな出版社、大きな出版社、書店、子供向けの本の製作者、教科書製作者の代表が入って意見交換している。
Q:映画は?
A:俳優の代表、監督の代表、写真家の代表、台本ライターの代表、放送局の代表などが集まっている。
Q:政府との関係は?
A:最初に言ったように、スーパーボード、エグゼクティブボード、これらは政府の人。元々、それぞれソフトパワーについて7~8省でやっていたが、それぞれ予算も別々でばらばらだった。ソフトパワーに使った予算は、60億バーツくらいだったが成果が見られなかった。この委員会はずっとあるものではない。法律などの整備のために委員会が設立された。最終的にはソフトパワー法を制定する予定。制定されたらTHACCAができる。
Q:ソフトパワー法の内容は?
A:下書きはできている段階。ただ現在政治が混乱しているので、ペンディングになっている。法案設立されて閣議、法制局審査、閣議、国会、国王発布、というプロセスされるが、最初の閣議前の段階。政治的な事故がなければ、来年の6~7月頃には出来上がると思う。議員立法も検討中。
Q:THACCAの究極の目的は何か?
A:戦略は3つに分かれている。1つ目は人材育成。人材育成は、1つの家族に1つのソフトパワーのスキルをつけるようにする。料理でもイラストでもゲームでも。タイ国民は、おおよそ200万家族存在している。2つ目は、それぞれの産業をより発展させること。3つ目は、グローバルを目指している。タイ国民向けだけでは足りない。ターゲットをグローバルにする。ソフトパワーを収入に変えることを目指している。タイはGDPが高い国ではない。この状況は30年続いている。そうすると、ソフトパワーを武器にしてその状態から抜け出したい。それがTHACCAの一番の夢。
Q:特にターゲットとして注目している国は?
A:料理は、特に特定のターゲット国はなく全世界をターゲットにしている。書籍は、日本注目している。中国、インドネシアにも注目している。市場規模が大きく、文化も近いから理解しやすいと思っている。特に日本は、タイのBLドラマや小説を輸出していている。タイに関する書籍はBLに限らず輸出したい。BLをきっかけにしたいという気持ちがあり、他のタイ文化にも興味を持ってもらいたい。日本の出版社と協力して発展させていきたい。タイでは日本の漫画を輸入してこちらで出版しているが、逆にこちらからも輸出したい。特に漫画。タイ人の漫画家の一番の夢は日本で出版すること。現時点ではコミケで同人誌を作って出すことも目指している。先週コミケがあり、そこに参加したタイ人作家が増えている。
・・・政局の混乱もあり、THACCAはまだ本格的には動いていませんでした。しかし内部構造は参考にしたいと思います。ちなみにKOCCAの視察(2023)はコチラ。
2日目(3):VIBULKIJ社
講談社と秋田書店の少年誌マンガ家の皆さん!タイ王国って、昔からかなり単行本(正規翻訳本)が売れてませんか?!印税も結構入ってきますよね。 この度、皆さんよくご存じの出版社「VIBULKIJ社」の視察に行ってきました!そこには、我々少年誌作家がよく見るタイ語バージョンの単行本がドッサリ! そこで出版社設立のキッカケや爆売れ時代、そして現在と将来について質問してきました。
Q:VIBULKIJ社は、どの時代から日本漫画を取り扱っていますか?
A:いまは漫画出版社として有名だが、1952年くらいから印刷会社としてスタートした。日本漫画を扱い始めたのは1983年頃。
Q:まず大ヒットした作品は?
A:『コータローまかりとおる』だと思う。続いて『金田一』や『コナン』など。少年漫画に人気があった。
Q:『ラブひな』のようなHラブコメは珍しくなかったか?
A:最初はアクションが分かりやすいので人気あった。しかしその後、『ラブひな』『ネギま』などが出版された時期は、市場が相当変わっていた。ちょうどその頃、海賊版が減ってタイでも著作権が意識されるようになった。それで様々な出版社ができあがり、様々なジャンルが受け入れられるようになった。タイ市場が、日本市場に近くなっていった。バリエーションがあるということだ。
Q:赤松作品は誰が翻訳したか?
A:うちの翻訳はフリーランス。
Q:日本漫画とタイの作家で比率はどれくらいか。
A:20年間くらいタイ作家を扱っていたが、今はいなくなった。今は100%日本漫画のみ扱っている。タイ作家はみんな成長して、自分でビジネスする作家になっている。
Q:タイでは昔は左閉じ(+左右反転刷り)で、今は右閉じになった思うが、いつ頃からそうなった?
A:20年くらい前から。いまはほぼ100%が日本と同じ右閉じになっている。
Q:BL漫画は取り扱っていたか?
A:タイ作家を扱っていた時期には、BLジャンルはまだ無かった。
Q:ビジネス構造を知りたい。
A:まず著作権のライセンスを受けて、こちらで翻訳して、原本を作って日本に送ってチェックしてもらって、100%OKしてもらうまで何度もやりとりする。
Q:ブックフェアには出展しているか?
A:是非したい。「この作家を紹介したい」となったらまず日本の出版社に連絡する。それで作家のスケジュール確認してもらうがなかなか難しい。
Q:電子書籍については?
A:電子と紙、半々くらいの割合で扱っている。日本の出版社との契約上、電子と紙の両方OKとなっている。ただ紙の方が、流通量が電子より10~20%多い。Webtoonと電子書籍はそもそも違う。何が違うかというと、プラットフォームと、読むスタイルが違う。 Webtoonの発展も必要だと考えている。ジャンル、バリエーションがあるから。特にBLは。
Q:出版に関する支援について希望はあるか?
A:出版する際のコスト、特に紙代とライセンス料。台湾のような支援があれば。ミニマムギャランティは負担になっている。紙の販売量が少なくなっているので。
社内や保管庫には、私がバリバリ描いていた時代のタイ語版が山ほどあり、当時の漫画家仲間や編集者を思い出してホロリとしてしまいました。壁には『ラブひな・カレンダー2001』などが飾ってあり、「ああ、当時マガジンの夏休みに描いたよなぁ」とかつぶやいたり。
最後に、タイ語版の「ネギま」などをお土産に頂きました。ありがとうございます!(作者献本で持ってますが!)
3日目(1):サムットプラカーン展望タワー(市立博物館)
とにかく暑いタイ視察の3日目。まずはサムットプラカーン展望タワー(市立博物館)へ。タイ湾を一望できる眺望の他、意外としっかりした博物館では、タイ王国の歴史と現在の主な産業について学ぶことができます。日本とタイの似た部分や、なぜ昔から仲が良いかなども。
3日目(2):国会議事堂/タイ日友好議員団
さて、午後からはいよいよタイの「国会議事堂」を視察させて頂きました。まずは大の日本マンガ好きであるウィラパット議員と再会し、固く握手。タイの国会議事堂も上院下院で左右に分かれ、真ん中に塔が建っています。
実はこの日、午前中にタイの新しい首相が決まったばかりで、相当ドタバタしていたはずなのですが、予定通りの視察をさせて頂き感謝しております。ウィラパット議員の日本訪問回はコチラ↓。
タイの国会議事堂は3年前にできたばかりで新しく、いわゆる議員会館が内包されており、内部は「鬼滅の刃」の無限城のような感じでダークでカッコイイ!
そして議場は、天井に無数に続く意匠が施され、まるでスターウォーズEP3の銀河元老院会議場のよう。ここで、かなり大荒れのタイ国会運営が行われているわけです。
さて、国会議事堂内の応接室で、本日のメインである「タイ日友好議員団」と「宗教・芸術・文化委員会」との意見交換会となりました。
■ タイ日友好議員団
Q:これまで日本の議員とどういった交流をしてきたか?
A:文化経済など幅広い分野で、重要な友好関係を築いている。しかし国会議員との直接的な交流は非常に少ない。特に文化関連の交流は少ない。
Q:タイ日友好議員団として、日本に来たことはあるか?
A:当議員団として日本を訪れたことはない。今後、議員団として公式訪問したいと考えている。
Q:日本からは議員は来るか?
A:日本の総理大臣も訪れたし、閣僚も来る。先日は法務委員会もタイに訪れたと聞いている。
Q:タイで流行っているコンテンツについて、議員からみてどういったコンテンツ流行っているか。
A:とてもBLが流行っている。BL漫画以外にもアニメ、ドラマ、映画に拡大している。他にYouTubeなどの動画を分析していると、観光分野の動画が人気。外国人観光客がタイに来て、タイを紹介する動画。旅行者誘致につながっている。タイ人が諸外国に行ったときの動画もバズっている。
Q:タイにおける漫画やアニメの浸透状況は?
A:タイ人の子供は、漫画で文字を読み始めることも多い。しかし今、紙の値段が高騰している。タイでは紙を中国から輸入しているが、紙の価格高騰により、漫画家を目指すより、若者はネットのキャラデザインにシフトしている。新しい時代の漫画家が育てにくい状況だ。ソフトパワー振興で漫画は重要。政府としても、紙の支援や漫画家育成支援が現状ではないので、どうにかしないといけないと思っている。
Q:日本以外で文化に関して交流している国はあるか?
A:文化面での交流多い国としては、アメリカはじめとする西側諸国。最近は中国のテレビドラマ、映画も流行っている。最近は韓国。特に若い世代にとって韓国のコンテンツが深く浸透している。
Q:タイ日友好議員団に何故入ったのか、日本の何が好きか?
A:幼少期から、日本漫画も日本食も好きだった。政治家として友好議員団に加入した理由は、日本の政治家の自己犠牲の精神に対する尊敬の念を覚えたから。特に、収入を震災時に自主返上したり、皇室に対する尊敬や、制度として完成した自由を持つ国だと思って、そう言うことを学ぼうと思い加入した。
■ 宗教・芸術・文化委員会
Q:この委員会の組織体制、構成員、機能について教えて下さい。
A:委員会は、複数の政党からの構成員がいる。人数は約25人。宗教小委員会と芸術文化小委員会に分かれている。宗教小委員会の機能については、タイは仏教国で寺が多い。寺の管理または要望事項があればその対応。芸術文化委員会は、タイの芸術文化を諸外国に広報するための方法等を議論している。顧問として、外部専門家が常駐している。出版社、小説家、映画プロデューサーなど。専門知識を仰ぎながら、分野での支援を協議している。タイの文化以外にも、自分の選挙区の伝統文化促進のために加入した議員もいる。委員長を除けば元クリエイターの議員はいない。
Q:新しい首相が、元国家ソフトパワー開発委員長だが、今後どうなりそうか?
A:諸外国のソフトパワーとは少し異なる。戦略委員会のもとで、ビジネスもしくはお金につながるようなソフトパワー、衣装も含めてソフトパワーとして売り出しているのが特徴。首相に就任して、どのくらいソフトパワーの促進に重点おくのかわからないが、もし推進していくようなら、政党の垣根を超えて協力したいと思っている。
Q:文化省や、国家ソフトパワー戦略委員会との連携状況を教えて下さい。
A:まずそれぞれのやっている業務の説明をすると、国家ソフトパワー戦略委員会は広いソフトパワー線略について協議、政策提言している。文化省は協議の文化政策実施。世界遺産の保全登録など、観光庁では新たな観光資源の発掘など、狭い範囲での政策を実施している。この三者では、もっと具体的な関係強化していく必要があると思っている。
Q:委員会が、ソフトパワー法とTHACCAについて、関わっていることがあれば教えて下さい。
A:本委員会とTHACCAは直接の関連はない。国家ソフトパワー戦略委員会が設立した戦略の実行部隊のようなもの。ソフトパワー推進のイベントなどをやっている。
Q:コンテンツ業界の担い手支援、文化振興に関し、タイにおいて法律その他における課題があればお教えください。
A:コンテンツ業界の担い手支援について、政府内で、ソフトパワー業界のための基金を設立予定。どのくらいの規模が集まるかわからないが、集まった金額に応じて、漫画家をはじめとするクリエイター育成に使いたいと思っている。管理主体、配分についてはまだ議論している状況。この基金が将来のクリエイターに機会を平等に与えられるかは分からない。
Q:タイでの表現の自由と年齢制限について、考えはあるか?
A:きつい年齢制限はあるべきではないと思っているが、エログロは子供の成長に悪影響及ぼすので、必要最小限の年齢制限は必要と思う。過剰な制限はだめ。
タイ側から、赤松への質問もありました。
Q:日本政府が日本の漫画産業を支援するに当たって、具体的な支援があったならば教えて下さい。
A(赤松):日本政府は、漫画産業の直接的な支援はしていない。国内の出版社と漫画家で、独自に売れている感じ。しかし韓国では、Webtoonを世界に広めるために国が支援している。ソウル市でも、小中学生たちに市が無料でiPadを貸し出してWebtoonの訓練をさせていた。日本でも遅ればせながら今年、複数年度に渡るクリエイター育成支援の基金が初めて設置された。
Q:漫画における言語の問題について、漫画は世界中で流通しているが、諸外国で、もっと流通させるために日本国内で翻訳を行うようなことは考えられるか?
A(赤松):漫画の翻訳については、確かに与党内ヒアリングで、出版社が「翻訳支援」を求めていた。そこでその要望をまとめて、政府に申し入れたところだ。
Q:デジタルテクノロジー発展によって、従来の漫画家に影響はあるか。タイでは特に紙の価格が高騰しており、日当の最低賃金の半分の価格でも漫画が購入できないくらい高騰している。従来の漫画家も売れずに廃業になっているようだ。
A(赤松):日本の作家は、今ほぼデジタルで描いている。そして売上の半分以上が電子書籍になった。紙の価格の影響で廃業に追い込まれていることはあまり聞かない。
Q:日本の漫画産業の売り上げは、大きな市場規模だが、タイの漫画産業が日本のように拡大していくためにどのようなことに注力していけばよいか。
A(赤松):日本の漫画家は、みんな基本的に国内に向けて描いている。同じように、まずタイの中で、タイ国民がみんな読むような市場を育てるのがよい。それが海外で認められれば自然と広がっていく。タイ国民がじっくり育てていくことが、実は遠回りのようでいて近道だと思う。
3日目(3):在タイ日本国大使館/日本人クリエイターとの意見交換
3日日の最後は、在タイ日本国大使館・大鷹正人大使との公邸会食です。実は海外視察において、毎回「リアルなその国の現状」を最も詳しくレクチャーしてくれるのが大使や総領事で、今回も「なぜタイはクーデターが多いのか」「なぜ大発展しないのか」「治安や格差の実際」など色々教わりました。なかなか話しにくいことも多いですね。
また、現地で活躍する日本人アーティスト2名(阿部恭子さん・川島千草さん)にも参加して頂き、タイにおける日本文化や、現地での生活についてヒアリングすることができました。これらの情報は、日本での政策やマンガ外交で活かします。ありがとうございました!