この記事を簡単に要約すると

・電子書籍化の波に合わせて、出版社側から「著作隣接権を得たい」という話を聞いた

・もっとも、権利者をいたずらに増やすことは創作物の利活用にはマイナス、また電子書籍の効率化や海賊版対策にも当時の権利状態で事足りるものであった

・元文部科学大臣現内閣府特命担当大臣(当時)に会いに行き、晴れて(?)赤松健ロビイングのデビュー戦。

・ロビイングの結果、最終的には「著作隣接権」はお流れにすることに成功!


こんにちは、赤松健です。

 今回は、赤松健と著作権法ロビイングの歴史第1弾ということで、赤松健ロビイングのデビュー戦、「出版社の著作隣接権」編です!

当時週刊連載を持っていた私は、「著作隣接権」という、著作権と同じく自動発生する権利を出版社側が求めているという話を聞きました。出版社側は「電子書籍の効率化」「海賊版対策」と説明するものの、創作者に電話一本で許可を得てやれば十分対策できるし、権利者が増えるとそれを使いたい人が許可取りする先が増え利活用にはむしろマイナスでした。

 納得できない私は、ついに初めて、足を震わせながら、時の内閣府特命担当大臣に会って漫画家としての意見を伝えるといういわゆる「ロビイング活動」のデビュー戦を果たしたのでした。

降ってわいた「出版社の著作隣接権」

 著作隣接権とは、噛み砕いて言えば、「著作者じゃないけど、作品の発表に大きな役割を果たした人達に認められる権利」です。音楽CDで言うと、作詞や作曲をした人が「著作権」者で、「著作隣接権」は歌手さんやレコード会社などに認められる権利となっています。

 特徴として、著作権と同様に、自動的に発生する権利となります。

 2012年当時、出版社に著作隣接権が発生した場合に考えられていたのは、

①電子化するとき、一つ一つの作品ごとに契約を結ばなくてもよくなるので、スピーディに電子化できる。(=出版社が速やかに電子書籍を作れれば、作家も儲かるはず)

②海賊版を訴えるときに、いちいち作者に確認しなくても、出版社の判断で訴えることが出来る。(=出版社が作家の代わりに海賊版をドンドン訴えてあげれば、作者も喜ぶはず)

ということです。

 

・・・しかし、①はこれまでの出版契約書方式でも十分スピーディであり、権利を与えてまで高速化する必要は無さそうでした。

また②も、今までの契約書方式で、出版社がドンドン違法なサイトや人を狩っており、作者(真の権利者)に電話一本入れる手間が省けるだけの話でした。

出版社の著作隣接権の問題点

以上のように、あまりメリットが見られない一方で、以下のような問題点がありました。

  • 著作隣接権が出版社ではない誰かに譲渡された際に、創作物の利活用が妨害される危険性
  • 昔のマンガを、他の出版社で再刊行したいとき、前の出版社に妨害されるおそれ
  • 権利を持つ人数が増えるので、活用したい時に意見が割れたり、割れなくてもそもそも許可取りでコストがかかったりし、日本の創作文化産業にとってマイナス
  • 作者が「黙認」したくても出版社が勝手に二次創作を禁止にするなどの不安もあり、二次創作文化にとってもマイナスとなりうる
  • 以上のようなリスクが自動的に発生してしまうため、出版社の意向次第でかなり作家や利用したい人が不利に追いやられてしまう

たしかに、私が講談社に話を聞きに行った際には、「作家が嫌がるのを無視してまで、勝手に著作隣接権を実現するようなことはしたくない」「デジタル時代に何らかの追加的な権利が欲しい。それが著作隣接権であれば歓迎する」というようなことを言っていました。

しかし、先ほど述べたように、たとえ講談社が素晴らしい出版社であっても、中小であくどい出版社がいて(仮にの話です)、こうしたところから出版せざるを得なかったりよく考えず出版する契約をしてしまったりした新人作家がいた時に、この新人作家は相当不利な立場に追いやられてしまいます。

ことの顛末によっては、出版業界に絶望してこの出版を機に創作をやめてしまうかもしれません。

やはり、私は納得できませんでした。

内閣府特命担当大臣、中川正春議員に会いに行く!

そんな中、里中満智子先生のお誘いで、とある勉強会に行ってまいりました。

中川正春衆議院議員(内閣府特命担当大臣)が座長を務める『 印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会 』では、「著作隣接権」 → 「出版物原版権(仮)」 → 「(仮)出版物に係る権利」 と名称を変更しつつそのパワーをうまく調整して、いよいよ著作権法の改正試案としてまとめつつあったとのことでした。

ということで、中川正春大臣に直接意見を述べ、聞きに行くことに。

国会議員と直接対峙するのは初めてで、いわゆるこれが「ロビイング活動」のデビュー戦となります。

勉強会側のメンバーは、中川正春議員と事務局の方、そして担当の弁護士さんでした。 

漫画家側のメンバーは、里中満智子先生とちばてつや先生と私、そして手塚プロなど漫画関係者の方々。

 この勉強会には、権利当事者である漫画家が参加していないということで、非常に不信感を持っていきました。

 実際に、【出版社の著作隣接権の問題点】で述べたようなことも述べるつもりでした。

しかし、勉強会参加時点では、これまで開催された勉強会を経て、既に作家と出版社の権利が現実的に調整された権利として議論されており、最終的には現状を確認して、疑問点を全てぶつけ、さらにニコ生での公開討論の約束まで取りつけて帰ってきました。

私は、あくまで当事者としての意見をきちんと述べたかっただけであって、出版社を絶対的な敵だとみなして倒したかったのではありません。ですから、納得の得られる内容であったかどうかを十分確認し、さらに国民に公開される場に引き出す形で議論を終えました。

もっとも、私達漫画家が意見を述べなかったら、出版社の当初の意見の通りになっていた可能性も否めません。勉強会においても私達漫画家が声を上げていた事実が考慮されていないはずがないのですから。

初めてのロビイング活動で相手は大臣の国会議員と言うことでドキドキでしたが、私なりのロビイング術「大御所を連れていく」という方法も編み出され、行ってよかったと思います。やはり、当事者として意見を述べることは非常に大事です。

最終的には・・・

勉強会参加時点から時間は経ちましたが、著作隣接権は見送りとなったとの報道がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0403G_U3A400C1CR8000/

こちらの勉強会から生まれた改正案について、自動発生する著作隣接権が回避されたということで、私の初めてのロビイング活動は成功に終わったと言っていいと思います。

 今回著作隣接権が無防備に生まれていれば、権利者がいたずらに増え、マンガ作品等が二次利用される機会が大幅に減っていき、マンガ・アニメ・ゲームの産業の発展が妨げられていたと思われます。また、二次創作についても出版社からの禁止により二次創作文化が衰退し、楽しむことも新たなクリエイターが技術を学ぶこともできなくなってしまったかもしれませんでした。

 今後も、マンガ・アニメ・ゲームの文化・産業の創作者=当事者として、そして二次創作文化を愛する者として、これらを守るために声を上げ、尽力していくつもりです。

※当該記事は、「赤松健の連絡帳」の過去記事を再編集・追記したものです。